マジで、この日が来てしまった。ずっと望まなかったこの日。無償にいつでも泣いてしまいそうなこの日。別れたくない人がいる。けれど、出会いがあれば別れだって絶対にある。その別れがこの日。嫌だ嫌だと思っていても、叶うはずも無い願い。だってしょうがないだろう、歳が違うのだから。そんな風に思っても解決するものではない。今日は、卒業式だ。うっとおしい卒業証書授与式が終わり、卒業生がバラバラと自分の教室が出てくる。廊下ではたくさんの在校生が卒業生を待っていた。俺もその中の1人。 「先輩卒業おめでとうございます」 俺の目の前には、あの愉快なテニス部の先輩達がいる。相変らず真田先輩はムッとした表情をしており他の先輩達はにこやかだった。特にブン太先輩は。そして用意していた数々の彩った花をあげた。妙に、ジャッカル先輩には花が似合わなかったけど。 「ああ、あんがとな。赤也」 「・・・先輩達がいないとせいせいしますよー」 「うわ、コイツー!いったな!」 ブン太先輩はそういうと、俺の顔にグーで殴ってきた。冗談といいつつも、むしろありがたいかもしれない。真田先輩にはもう殴られたくないから。と、簡単な理由だけれど。ただ、1つ卒業してほしくない、理由はある。けれども、先輩達には関係がなかった。 「これからのテニス部は赤也に頼むことになるんじゃのう」 「ハハ、仁王先輩。心配しないでくださいよ、絶対全国制覇しますから」 「頼もしいね、赤也」 「任せてくださいよー!」 そういうと、じゃあ頑張れよ、と先輩達は俺の傍から離れていった。そしてたくさんいた女子から手紙とか花とかたくさんもらっていた。ブン太先輩はお菓子が多かったけれど。頼もしい先輩だったし、本当に今では感謝している。こんな俺と一緒にテニスをしてくれて。だから、口にはいえないけれど、最上級の感謝を。 「・・・赤也、あっちに先輩いるけど」 「え、ああ。さんきゅー」 「あ、先輩たーくさん、花もらってたけど、アンタどうすんの?」 「さぁね。先輩がもてるのは知ってるけど、あれじゃあねぇ」 「あれ、意外に弱気なの?」 「まさか。俺以上に先輩倖せにできる奴なんていると思う?」 「自意識過剰」 「なんとでもいえ」 が、俺に気付くと先輩があそこにいる、と指を指す。先輩とは、テニス部のマネージャーでタイプが違えど仲が良かったらしい。の手元にはさっきまであった花がなかったから、先輩にあげたのだろう。あとテニス部の先輩達にも。はサバサバしていて、先輩達にも好かれている。あとブン太先輩と付き合っているけれど、なんというか付き合ってない感じはする。けれども、は倖せそうな顔をするのがいつも見ていた。にお礼をいってから、俺は人に埋もれた先輩の元に向かう。 「先輩ッ」 他の奴の足を絡ませて、転びそうになった先輩の手首を掴む。そして、先輩はにっこりとしてありがとう、と云った。ただ、貴方を見ていただけというのに。なのに、離れてしまうのだろう。この儚い笑顔さえ見えなくなるのだろう。 「・・・赤也はどうしたの?」 「いや、一応お礼いっておこうと」 「あら、偉いじゃない」 「別に褒められることじゃないっスよ」 俺が照れくさそうに、そっぽを向くと先輩は、可愛いと云う。男の俺は、可愛いなんていわれても全然嬉しくないんだけど、先輩だとなんだか別にいいんじゃないかと思う。これが惚れた弱味って奴? 「先輩、花凄いっスね」 「ああ、これ。なんかたくさんもらっちゃって」 「俺のも、大丈夫ですか?」 「ふふ、赤也のなら大歓迎よ」 彼女の長く細い指先が俺の指に触れる。愛しく思い、そしてその想いに焦がれていた。薄いピンク色の花。彼女に似合いそうな色。好きだと云ってくれたら嬉しい。ただ、彼女に倖せになってほしいから。ただ、それだけ。 「・・・あたしが好きな花ね」 「こういうの先輩好きそうだったから」 「ありがとう」 「喜んでもらったなら嬉しいっス。・・・先輩」 「何?」 凛とした、彼女の表情が俺を支配する。何だっていうんだ。ただどこかにいる女だというのに。周りには人がたくさんいるというのに、俺はやってしまった。淡い想いと一緒に。 「・・・ちょっ、赤也・・・ッ?・・・」 柔らかい赤く染まる口唇に、自分のモノを優しく重ねる。すぐ離すと先輩は、何故か笑っていた。 「先輩、スイマセン・・・。あの、」 「赤也はさ、人のことちゃんと考えなよ?」 「・・・え?」 「あたしは、赤也のことが好きだったから、よかったわけで、他の人だったら嫌でしょう?」 「は、はい・・・」 「だから、ちゃんと自分の行動考える事!わかったかしら」 「え、えぇ。で、も」 「・・・何?」 「俺は、先輩が好きなわけで、だからしたんです、キス」 「・・・あたしも好きよ、赤也のことが」 淡いピンク色の桜が舞い散る。俺の、欲しかったものが手に入る。 けれど、春は別れの季節であって出会いの季節。だから、大切にしよう、貴方を。 一生別れがないように。 |