ねぇ、どうして見つけてくれないの。あたしは、貴方の目の前にいるというのに。ずっと、貴方のことを想っていたのに。大声で叫んでも、届かないよ。あーあーあーあー!叫んだって、貴方の耳には聞こえてないみたいだ。近くて、遠くて。貴方はいってしまう。みえてない、あたしとの距離がどんどん離れていく。あ、貴方が振り向いた。けれど、あたしの名前は呼んでくれない。前みたいに、呼んで。あたしが、ぶるって身体が震えるくらい艶やかな声で呼んで。いちどでいいからあたしのなまえを。もしかして、あたしは生きていないのかもしれない。貴方が気づいてくれないから。貴方があたしのことを気づいてくれないのなら、生きていなくてもいいわ。死んでいてもかまわない。だってしょうがないんだもの。こんなにも貴方がのことが好きだから。泣きたいくらい好きだから。大好きだから。ねぇ、いちどでいいから、








「聞こえてるよ、どうしたの。冬獅郎」






あ、貴方があたしの名前を呼んでくれた。けれど、風があたしと貴方の間で邪魔をする。朱色に染まった葉や黄色に染まった葉が風にのって舞う。ああ、とても綺麗だ、と思う。貴方にとても似合う、綺麗な赤と黄色の葉。どうして、貴方は気づいてくれないの。あたしはこんなにも近くにいるというのに。ただ、あたしの名前を呼んでくれただけで、あたしがここに存在していることには気づいてはいない。いつもの貴方ならば、にっこりではないけど、少しだけ微笑んでくれて、あたしはとてもとても嬉しくなるよ。でも、ね。貴方は微笑んでくれないの。あたしの名前を呼んでも、微笑んではくれない。その逆、泣いてしまいそうだ。いま、あたしが貴方だったら、目尻が厚くなっているだろうな、と思う。あたしだったら、泣いてしまうだろう、って思う。何でそう思ったかは知らない。理由がわからない。けれど、哀しく思ってしまうんだ。貴方の表情を見ていると。あたしは、ここにいるよ。あたしを見つけてよ。存在しているよ。






「…どうして」
「どうして?何が?」


また、だ。貴方のこえが聞こえた。少し震える声。掠れた声。ああ、どうして切なく感じるんだろう。貴方に逢えているというのに。貴方の傍にいるというのに。どうして、どうしてなんだろう。あたしは倖せなんじゃないか。貴方の傍にいれて。けれど、哀しくて泣いてしまいたい。あたしはあたしであったはずなのに。今はあたしはあたしでないみたい。



「どうして、消えたんだ。お前は」
「消えてなんかないよ、冬獅郎の傍にいるよ」



あたしのこえは聞こえていたのかな。聞こえているのかな。どうしてだろう、ねぇ、なんで涙があふれてくるの。もう、貴方に見つけてくれないと思ったから?きっと、見つけてくれないだろう。だって、あたしは、あたしは。ここに、いない。存在はいるけど、ここにはいない。




「…なんで、死んだんだ、
「いつでも、一緒にいたよ、冬獅郎」






風がヒュウヒュウ、と吹いて、葉が舞う。身体の芯が冷えるまで、冬獅郎はそこにいた。一歩も動かず、そこにいた。ああ、どうして、あたしは死んでしまったのだろう。こんなに愛しい人がいたというのに。離れたくない、離れた方がいいにきまってる。こんなに未練タラタラなあたしを、もし貴方が見ていたなら、何でそんなんだ、と笑っていうだろう。戻ってこればいい、と云ってくれる。そんな優しい言葉をかけてほしいわけじゃない。貴方がそんな風にさびしそうにするから、あたしは貴方の傍を離れられない。何で、さびしいの。あたしはいなくなっても、愛してるよ、冬獅郎のこと。ああ、何故人間は死んでしまったら、伝えられないのだろう。最後にひとりだけ、言葉を残せてくれるようにしてくれたら、どんだけ救われることか。そんなことがあったら、あたしは何も迷わず、冬獅郎に送るよ、言葉を。短いけど、想いが詰まった言葉。それ以外伝える言葉はないの。






「倖せになってね」

ちいさい秋みつけた