あたしの前には綺麗なアゲハ蝶が舞っている。季節の中でも、少しの時期しか見れないという蝶。こんなに美しい蝶なのに、すぐ死んでしまうというのは命が儚いからだ。蒼く光る羽の色は人間の色よりも美しいと思う。自分は人間ではないからそんなこといえる立場ではないけれど。(元は人間だったんじゃないのかな)


「オイ、何やってんだよ」
「・・・んー、蝶見てただけ」
「おいおい、現世にきてもお前はいつも同じかよ」
「恋次だってそうじゃん。アレが食べたい、コレが食べたいって」
「うるせ」


今度、隊長に言ってあげるよ、というと血相を変えてそれだけはやめろ!といってきた。でも、頼むのにその口調はおかしいと思う。いや、そんなところを突っ込む必要はないんだけど。あたし達は現世に来ていた。滅多にはないけれど、今日は恋次と2人で。隊長が2人の方が早く終わるだろう、と言っていた気がする。恋次は無茶苦茶な時もあるけど、死神としての戦闘能力はずば抜けてると思う。そんな恋次とは違って、あたしは戦闘能力というより、書類を書いてたほうがいいかもしれないくらい先頭には才能がない。
だから、現世に来るのも久しぶりなんだ。でもよく隊長が許してくれたのが疑問だけど。


「・・・えっと、恋次」
「何だよ」
「やっぱなんでもない。任務終わったから帰ろうか」
「いや、もう少しココにいようぜ」
「え、何で」
「今はこっちの方がゆっくりできるだろ」


そういえば、そうかもしれない。今は何故だかは知らないけれど、忙しいらしく現世の仕事の方が楽といえば楽。でも、忙しいからこそ、さっさと帰らなくちゃいけないのに、何をのんきにゆっくりしているんだろう。恋次ってこういうところは真面目じゃないな、とつくづく思う。そりゃあ、あたしだって休みたいけど忙しい時に何も休まなくても、と思うことは思う。


「少しはゆっくりできるといいな」
「・・・え?」
「お前、いっつも寝てないだろ」
「ち、ちゃんと寝てる、よ」
「嘘は付かなくていいんだよ。何でもいいから休め」
「もしかして、現世に来れたの、恋次がいったの?」
「ああ、当然」


まるで、俺はいいことした!とか思ってる顔してるけど、むしろ隊長たちは困ってるんじゃないのか。恋次は何にも考えないで行動するからー!!もう、いやだなぁ、とメソメソしていると、思いかけない言葉を言ってきた。


「隊長もゆっくり休め、だと。隊長も気付いてたんだからな」
「えっ!?ほんと?」
「ああ。頑張るのはいいことだけどよ、心配させるなよ」
「・・・今後気をつけます・・・」
「でもの働きぶりは役に立つからな」


ニカッと笑う恋次の顔は輝く。いつもこの笑顔に助けられていた、のかな。この笑顔を見れば、何でもできそうな気がする。・・・もしかして気がするだけ?とにかくできそうってことにしておこう。そして恋次は、戦闘以外だけどな、と一言付け加えられた。そりゃあ、あたしは戦闘では役に立ちませんけどね!


「・・・でも、ありがとね」
「別にお礼をいうことじゃねぇよ」
「ううん。いっつも恋次が気付いてくれるから、あたしは無理しないと思うの」
「そうか、役にたってんならいいんだ」
「だから、本当ありがとね!・・・あ、蒲公英だ」
「あの黄色い花でギザギザの葉?」
「うん。これ可愛いなぁ。どこにでも咲いてる花だけど」
「まるで、だな」
「は!?そこらへんに生えてることが!?」


ブッ、と噴き出すと恋次は腹を抱えて大笑いしている。どうやらツボにはまったようだ。・・・そんなに面白かったの、あたしの発言。涙目になりながら、違う、違う、と否定する。・・・否定するの遅い気がするよ。


「これって、人につぶされるだろ、よく。だけど一生懸命生きてるじゃん、そういうところが似てる」
「・・・なんだ、そこらへんに生えてることかと」
「そんなんだったら、がたくさんになるじゃねぇかよ」
「ま、まぁそうだけど」


自分がたくさんいたら、そんなの嫌だ。というか、そんなことあるのはありえないけど、考えればキモチワルイ。というか、それで恋次も考えたのがすごいと思う。


「ま、とにかくお前は無理すんなってことだな!」
「・・・ハイハイ」
「んじゃあもう少しここにいたら、いくか」
「うん」


黄色い小さな花、蒲公英に白い蝶が蜜を吸いにきていた。真っ白な蝶はいつも見る美しい蝶とは違うけれど、可愛らしい蝶だった。なんだか、和む。蝶という生き物は不思議だ。人間だったら、どう見ていたんだろう。蝶のことを。恋次が、お前モンシロチョウが好きなのか、と聞いてくる。モンシロチョウ?と疑問に思っていると、あの白い蝶の名前。と教えてくれた。モンシロチョウというのか、初めて知った名前だ。どれも綺麗だと思う。


「・・・お前は見ててあきねぇなー」
「え?」
「コロコロ表情が変わるからな。見てるこっちが笑っちまう」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
「ま、そんなところもお前らしいけどな」
「それがあたしだもん」
「・・・そういう顔、俺以外にはみしてほしくないけどな」
「えっと、それはどういう・・・」
「じゃあ帰るか!」


あたしの質問は恋次の大きい声にかき消された。でもたぶん、恋次の耳には聞こえたと思う。というか、どういう意味でいったんだろう。もしかして不味い顔をしていたのだろうか。だったらはっきりいってくれればいいのに!


「そういえば、地獄蝶も好きなのか?」
「うん、好きだよ。蝶はみんな好き」
「・・・ふーん、じゃあ蛾も好きなのか」
「何、それ」
「お前が好きな蝶みたいには綺麗じゃねぇけど、蝶なんだよ。蛾はその蝶の名前」
「そうなんだ。また今度見せて」
「じゃあ、お前はまた無理してから、現世にこないといけないな」
「それはどういう、意味・・・」
「だからお前は戦闘に出さないっての。隊長と約束してあるんだからな」
「あたしの許可なしに、何でそんなこと決めてるのー!」
「お前が危険な目にあわないようにだよ」


死神は戦う物なのに、何をいってるの。・・・でも、後日恋次が蛾について嘘をいったこととあたしが疑問に思ったどういう意味であの言葉をいったのか、それは後日乱菊さんと話しているときにあきらかになった。