あたしから見る榛名くんというのは、とても優しい人だと思う。
友達とかは、かっこいいとは思うけど、優しくなんかないよ、とかいってた。
なんか色々噂が流れてて、それは榛名くんがいかにも悪い人になってるんだ。
それはよくわからなくて、あたしはそんな噂は信じないことにした。そんなの、だって意味がないじゃない。
嘘かもしれないんだし、と思った。たまに、話すことがあるけど、しょうがねぇやつだなといいながら頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。
だから、優しいと思う。ただあたしだけの特権かなぁと思った。





俺から見るは、なんていうかほっとけないヤツ。
後ろから見ていれば、何か大変なことをやらかしそうで見ていて怖い。なんつーかお前は何やってんだ、といいたくなる。
階段があれば、持っていたプリントを見ていて階段なんて気付かなくてそのままおっこちそうになった。
隣の友達がいたので、おっこちそうにはならなかったが。それに、前花瓶をもっていて、それをおとしそうになっていた。
そのときは、俺がちゃんと花瓶を受け止めた。・・・でも、水はこぼれて俺の制服は少し濡れていた。
それでは、可愛らしいハンカチをもって大丈夫?とか聞いてきた。・・・もとあといえばお前のせいだけど。
じゃなかったらいっていた。なんかコイツは今風の女じゃない。なんていうか、何も知らない女。
男を本当の意味で知っていないやつだと思った。




















今日は、学校が終わってからそのままバイトにいった。
その途中、グランドで野球部が練習をしていた。その中に榛名くんもいた。たしか、投手してたって聞いたことがある。
やっぱりそれだけすごいんだろうなぁ、と思いながら見ていたら、榛名くんを発見した。
制服とユニフォームだと全然雰囲気が違うなぁ・・・。野球をしている榛名くんはかっこよかった。
しかも、投げている球はものすごく速くて目を追うだけでもすぐに捕手のグローブの中に入っていた。
え、そんなにすごい人だったんだ。あたしとはつりあわない人だなと思った。
とりつかれているように野球部の練習を見ていたら榛名くんに声をかけられた。




!」
「・・・え、榛名くん?」
「こんなところで何やってんだよ」
「や、ただバイトいこうと思って、で野球部の練習見ちゃって・・・」
「ふぅん。何、俺目当てで見てたわけ?」
「ええっ!」
「だってずっと俺見てたじゃん」
「な・・・!気付いてたの!?」
「あたり前じゃん。じーっとみられれば誰だって気付く」
「す、すいませんっ・・・。じゃあまた明日っ!」
「・・・謝るなって・・・。ちょっ、お前っ・・・!!」



ひーん!気付いてたならいってよね、榛名くん!
榛名くん目当てで見てたと思われるじゃないの!あたしは決してそんなわけじゃないのに。
ただ、凄いと思ってみてただけなのに。もう最悪だー・・・!榛名くんはなんか、あたしの気持ちなんて知ってるような感じ。
そんなに顔に出してないと思うんだけどなぁ・・・。
まぁ、そんなことはいいとして。携帯を見れば、あと10分でバイトの時間だ!と思って走っていった。
何で、練習なんて見ちゃったんだろう。




ただからかっただけなのに、アイツはそのまま逃げていった。
え、俺なんか悪いことしたのか?ただ、俺の野球してる姿見てほしかっただけなのに。・・・え、何でこんなこと思ってんの、俺。
まるで俺がのこと好きみたいじゃないか。何考えてるんだ、俺は。
でも、たまにアイツが嬉しそうに男と喋ってるのを見ると、むしゃくしゃする。
そのとき、秋丸は、どうかしたの?機嫌悪いよ、と言われた。何、この気持ちは嫉妬、なのか?
だいたい、何で俺はのこと好きになったかわからない。そりゃあそこら辺にいる女よりは可愛いとは思うし、
泣いた顔なんてみたくもないし、ずっと笑っていてほしいなんて思ったことはある。
それが、好きって気持ちなのか?




「あーうっとおしい!」
「榛名っ、どうかしたの?」
「・・・何でもねぇ。さっさと投げんぞ」
「勝手にいっといて・・・。そんなにさんのことが好きなんだね」
「うっせー!ちげぇよ。何でアイツなんか好きにならなくちゃいけねぇんだよ!」
「・・・あれ、もしかして榛名自分の気持ちに気付いてない、わけ?」
「・・・」
「図星か。まぁ俺からすれば好きなんじゃないの、いっつものことみてるし」
「それはあれだ、見てないと何か大変なことしそうだから、見てるだけ。なんつーか妹?みたいな」
「それでも、俺はそれが好きだとおもうけどな、さんのこと」
「・・・無駄話してねぇで、練習すんぞ」



秋丸が、はいはいといいながらグローブをかまえる。
何で、俺がお前に心配されなくちゃいけねぇんだ。本当にアイツはいったいなんなんだ。
何故か、俺がアイツのことを好きになっちゃいけない、なんて暗示をかけているみたいだった。
本当に、俺はアイツのことが好きなのか?


















練習が終わって、そのあと自主トレしていたら、もう辺りは真っ暗になっていた。
まぁしょうがねぇかな、と思って、制服に着替えた。しっかも満員電車とか本当にごめんだ。
だったら、終電の方がまだマシだろう、と思ってホームにあったベンチに腰掛けて、寝た。
・・・なんていうか、疲れていたし、ボーッと待っていても寝ていたほうがいいだろうから。
どうせ、終電になったら駅員が起こしてくれるだろう。・・・ベンチで寝ていたら、きっと気付いてくれる。
それに、俺もたぶん起きると思うし。




やっとバイトも終わり、もう辺りは暗くなっていた。あーあ、またこの時間かぁと思うと憂鬱になる。
でも時給はいいから、そんなことはいってはられない!頑張ってかばんとか服とかかうんだ!
学校には近いからそのままいけばいいんだけど、家は遠いんだよね。親にはいってあるからいいんだけど。
・・・やっぱりこの時間はラッシュなので、満員電車に入るしかない。嫌だな、満員電車。人ごみだけでもいやなのに。
そんなことを思いながら、ホームにでた。電車はまだこないみたいだから、ベンチに座ろうと思ったら、そこには意外な人物が座っていた。
榛名くん、だった。



「・・・榛名くん?」
「・・・」
「これは、完璧寝てるよね・・・」



スースーと寝息を立てて、榛名くんは眠っていた。こんなときに普通寝る?
普通なら早く帰りたいと思うよ、きっと。な、何を考えているんだろう、榛名くん。
こんなところで寝てたら、誰かになんか盗まれたり、殺されたりするよ!?・・・もしかして、死んでる?
死んでるわけ、ないよね。手がこんなにあったかいんだから。・・・勝手に殺したりしたら駄目、だしね。
なんか怒りそう、そうやっていったら。でももうそろそろで電車が来るから、起こしたほうがいいかな。



「スイマセン」
「・・・え、何ですか、駅員さん」
「その子の彼女ですよね、貴方」
「え、その子って・・・」
「彼ですよ、彼。ずっとさっきから寝てましてね。どうしようかと思ったんですけど、彼女がきたならと思って」
「・・・そ、そうなんですか」
「終電もそろそろですから、気をつけて帰ってくださいね」
「・・・あ、はい」



・・・あ、彼女のこと否定するの忘れていた。だって榛名くんって顔がかっこいいからもてるんだよね。
だから、あたしが彼女なんて相応しくないし。でも、今はそんなことを考えているわけにはいかないのだ!
そろそろ終電ってもうそんな時間だったんですか・・・。榛名くんも全然おきそうにないし。
よし、とっておきの起こし方をしてあげよう!・・・本当はフライパンとかあったらいいけどさ。




「はーるーなーくーん!早く起きてくださーい!」
「・・・」
「・・・これでも駄目か、それじゃあ!」


頬をつねってみた。・・・あれ、全然起きない。
よく見ると、すっごい整った顔をしてるなぁ・・・。もてるのもわかるな、榛名くんなら。
まぁ優しくないとかいう人はいるけどね。ああ、もう早くおきてくれないと困る!




「・・・ん・・・うっせーな。誰だよ」
「あ、起きた」
?何でここに」
「こっちが聞きたい。寝てたからビックリしたよ」



誰だ、頬をつねったヤツは。と思うと、目の前にいたのはだった。
何で、こんなとこにいんだ?しかもアイツはバイトじゃなかったのか。・・・でも、アイツは凄く安心したような顔をしていた。
めがさめたら、なんでがいるんだよ・・・。一瞬ドキッとしてしまった。
アイツの綺麗な顔を本当に近いところで見れたから。・・・やっぱり好きだと認めるしかねぇのかな・・・



うっせぇ!?・・・やっぱり、起こさないほうがよかったかな。
よし、もうここから逃げよう!それが一番いい方法だ。榛名くんを怒らせないようにすればいいんだ。
さりげなく、別れを告げれば大丈夫!うん、我ながらいい考えっ。




「榛名くんが起きたからよかった。それじゃあ、また明日ね」
「・・・おい、待てよ。お前電車にのるんだろ」
「うん」
「ラッシュの中、小さいお前だけで大丈夫か?」
「小さいは余計!・・・まぁ大丈夫だよ、いつもなんとかなってるし」
「・・・ほら、電車きた、いくぞ」
「え、あの榛名くん?」
「・・・起こしてくれたお礼だ」



・・・えっと、今あたしの手を榛名くんが掴んだんですけど。
いわゆるあれですか、手を繋ぐというやつですか?え、待ってよ、こういうのは彼女とやるものでしょ。
あたしなんかにやっても、何にもないよ。何にも得がないよ!ほらほら、周りもなんかじろじろみてるしさぁ。
電車の中はやっぱり満員だった。入れるところなんてあるのかなと思うと、榛名くんにずるずるひきづられながら、
反対のドアの方にいった。・・・さすが男の子だ。やっぱりこういうときはいいよなぁ・・・。
もう手を離してもいいのに、榛名くんは手を離さなかった。
自分でもわかる。顔は真っ赤だ。しかも、ドキドキする。何、これ。まるで、あたしが榛名くんのことが好きだといってみたいじゃないか。
好きってアレでしょ。付き合ったりして、キスしたりして。考えるだけで、あたしには遠いことのようだ。
上を見れば、榛名くんが見えるわけで、顔を見るだけでドキドキしてしまう。え、これって好きってこと?




思わず、手を掴んでしまった。・・・しかもそのあと手を繋いでしまったし。
俺、なんか悪いことしたか?・・・もすごく困ったような顔をしていた。
そんなこときにしてたら意味がない。とにかくドア側の方にいけば、だって変な男から守れるし。
女ってこういうところで不便だよな、とか可哀想だとは思うな。はずっと俯いていて。
でも、少しわかった。顔が真っ赤だった。・・・たぶん手を繋いでるせいだと思うけど。
こういうのを見ると、守ってやりたいと思ってしまう。本当のこの気持ちは・・・




「・・・はる、なくん」
「何?」
「あの、ありがとう」
「・・・別に。俺だって起こしてもらったから」











END...







05.8.29