It being loved



ああ、どうして神様は彼女を愛さないのだろうか。



誰もいない教室の中、夕焼けでオレンジ色に空が染まる頃、彼女と俺はいた。彼女は、端の席にちょこんと座っていた。いつもそこで授業を受けていて、学校が始まるときから終わるときまでずっとそこに座っている。そして、今もその席に座っている。でもいつもと違う彼女の表情。いつも、誰かが話しかけるとまるで華が微笑むように笑うのに今は笑顔なんてくそくらえなものはない。黒い髪が流れ、オレンジ色の光が反射して、綺麗だと思う。いつもの彼女を見て、綺麗だ、と思うこともないのだが、今の彼女は綺麗で美しい。俺は、教室に忘れ物をしたことを忘れていてずっと教室の入り口で彼女を見つめていた。そう、ずっとずっと、彼女を見つめていた。これが、目を奪われるというものだろうか。彼女はぴくりとも動かずに、席に座っていた。長い髪も動かないで、そのままとまったまま。



「…ひっ、く…」



彼女の泣いているこえが聞こえる。綺麗な横顔の頬には、涙が一筋流れていた。夕焼け、オレンジ、綺麗ななみだ。全て忘れられそうにない。俺はまだ教室の入り口にいたのだった。彼女を見ていたくて。いつも教室にいる彼女は、いつでも端っこにいるような子で、そこまで興味を持つこともなかった。ただ知っているのは、名前と顔、そしてあの愛想笑いだけだった。生きている表情を俺は、見たことがなくて、コイツはつまらない人生なんだ、と決め付けていた。でも、彼女は生きている。ないている。心の底からないている。何を、泣いているの。やはり、彼女はピクリとも動かないんだ。どうして、彼女は哀しんでいるのだろうか。俺にはさっぱりわからない。彼女が思いつく行動は、ただの愛想笑いに過ぎなかった。やっぱり俺は世界中の中のすみっこにいるような人間だ。だから、彼女の哀しみを見ただけではわからないのだ。喋ったこともない彼女のことなんてわかるはずがない。俺は、興味のない奴なんて、話しかけないし、話さない。でも、今彼女と話してみたいと思ったのだ。…もう遅いのだろうけど。本当に遅いだろうけれど。





すこしだけ、足を動かしてみる。さっきまでぴくりとも動かなかった黒く長い髪が動いた。ちいさな足音さえでも気づくのだ。彼女は、耳を澄ましていたのだろうか。俺は、彼女の席まで一歩一歩近づいていった。その一歩を踏み出す度、彼女の身体は動いていく。おれんじいろの光に反射した黒い髪が揺れる。彼女の顔を覆うよう、揺れる。俺が彼女の席についたときに、表情は見えなかった。黒い髪で顔が隠されていた。泣いていたことが見られていたから?そうかもしれない。喋ったこともない男の子なんて恥ずかしいから?そうかもしれない。けれど、俺は少しだけ震える彼女に問いかける。どうして、泣いてる、そうやって、できるだけ、俺の中で優しく問いかけた。彼女は、くしゃくしゃになった髪を丁寧に手ぐしで直して、ピンク色の小さな唇を開けた。ふられた、の、好きな人に、そうやって云った。そうか、彼女は好きな奴の為に泣いている。何で俺は、このとき俺の為に泣いていたら慰めてあげれたのに、と思ったのだろう。喋ったこともない相手だというのに。ありえるわけがないのに。俺は、どうしてここまで思ってしまうのだろう。彼女が泣いているから?いや違う。彼女に惹かれてしまったから?いやちが、わないかもしれない。でも、その彼女の好きな奴が羨ましいと思ってしまう。彼女が言葉を口にしてからずっと静寂の時が訪れた。俺も彼女も口を開かない。彼女はまだ泣いたままだった。泣き止んでほしい、でも、泣いてて欲しいと思う。彼女が楽になる為に泣き止んで欲しかった。俺がここにいるために、彼女には泣いてて欲しかった。そこまで仲良くない俺と彼女が一緒にいる口実なんてこれっぽっちないのだ。



しばらくして、彼女の綺麗ななみだを俺は自分の手で掬い取って彼女はやっと俺を見た。




、」




そうして、俺は彼女の名前を呼ぶ。そうしたら、彼女はまた泣きはじめてしまった。どうしてだ、と尋ねたら、彼女は好きな人みたいにあたしの名前を呼ぶから、と呟いた。
Not loved by God
名前を呼んでほしいなら、俺が呼んでやるよ、「」、と。