『…ザァァ――――。隊員、聞こえているか』 「は、はい、島崎隊長!」 『今、ターゲットを部室を出た。準備をせよ』 「了解しました!」 ザ、と機械音が消えた。持っているものは、玩具といってもいい一定間隔しかもたない無線機だ。無線機をもっている自体、自分はおかしいといえるだろう。無線だけではない、草陰に隠れていたり、何か物凄く怪しいような格好をしている。何でか、隊長(今はそう呼ばないと島崎先輩は怒る)がこれを着ていけ、と迷彩柄のジャケットをあたしに投げつけた。その中に無線機も入っていたため見事頭に当たって痛かった。(わざと投げたんじゃないかと思う)(だって島崎先輩だもの) そんなことを考えていたら、草陰から見える位置に黒い影が現われた。それは目標人物で、すぐに手にもっている無線機の電源を入れた。機械音が耳に響く。 「ターゲット確認!計画通りすぐ動きますか?」 『…もう少し様子を見るのもいいかもしれないな』 「島崎せ、隊長。後ろから邪魔者が着ましたが」 『利央か』 「そうです」 先輩ー!と愛想よく笑い目標人物に近づくのは野球部でも綺麗な男の子(女の子にも見えるかも)利央だった。投手捕手だから、気が合うのかもしれないと思ったけれどよくいじめられている現場を見るのですっごく仲が良いわけじゃないかと思った。いろんな意味で仲がいいのかもしれないけれど。そこで待っておけ、と無線で隊長の低い声が聞こえて、部室の扉が開く音がすれば、隊長(島崎先輩)が出てきた。自ら、隊長が動いては意味がないんじゃないか、と思ったりもするが、言わないでおこう。 「利央、和己が呼んでたぞ。グランドにいるんじゃないか」 「慎吾さん、それ本当!?やば、今すぐいきます」 「…おお、早くいってこい」 綺麗な金髪が跳ね、少年がその場から去った。そして、島崎先輩は目標人物を少し話して、また部室に戻っていった。そんなことをしたら何か不思議がられないのかと思うけれど、先輩だから大丈夫だと思う。色々すごい人だから、あの先輩は。味方ではいいが、敵になるのは絶対イヤだと考えてしまう。 『…とんだ邪魔が入ったな』 「まぁいいじゃないですか」 『お前、利央に甘いとな、色々苦情がくるぞ。他の部員から』 「そ、そんなことないですって!」 『まぁ、いい。よし、そろそろいってもいいな。準太の近くには誰もいないな?』 「はい、それじゃあいってきます」 『ドジだけはすんなよ』 「わかってますっ!!!」 ブツリ、と無線機の電源を切る。ふと思うけれど、こんなものどこで手に入れてくるのか不思議に思う。色んなことできるから、こんなものは序の口かもしれない。なんかいけないようなものも手に入れてそうだ、まぁ先輩だって健全な男子高校生だからね。そして、無線機をジャケットのポケットに入れ、ジャケットを投げ捨てた。ジャケットの下にはいつものジャージ。 「準太!」 「。何やってんの、こんな所で」 目標人物というのは、2年の期待のエース、高瀬準太だ。顔は整っており、身長も割と高めでこの学校でも人気がある生徒だ。一応だけれど、あたしは準太の彼女だ。平凡な顔で、平凡な生活を送ってきたあたしにとってここの野球部は刺激を与えられた。だから、今ここにたっていられるんだと思う。というか何で準太と付き合ってられるかわからない。自分は準太のことは好きだったけど。何で。何でとか思ったりした。だから、先輩に相談した。だから、こういう結果になった。 「何でって、マネージャーだから」 「…え?慎吾さんから、風邪で休むって聞いたけど」 「…え、あ、あの大丈夫だったの!」 「そうならいいけど。無理すんなよ?」 パッと太陽のように明るくなるような笑顔はあたしにとっては極上のものだ。どれだけその笑顔があたしに向けばいいと思ったことだろう。ずっとずっと思ってきた想い。ずっと隠してきた想い。もう、無理だよ。そんな貴方を見たら、あたしは、 「準太、ごめん、ね?」 「は…ちょっ、ッ!」 ん、と彼の真っ赤な唇に自分のものを押し付ける。ついにやってしまった。やらなければよかったのにと思い、唇を離そうとしたときに、ガシッと頭を押さえつけられた。強く吸うように求めてくる準太は別人だと思った。自分とは思えない甘い声が漏れる。やっと唇が離れたかと思うと。 「…そんなに俺を煽りたいの?」 「な、なに?」 「そんな潤んだ瞳でイヤだ、なんていわれても無理」 「じゅ、準太?」 「慎吾さんに言われたから、キスしたんでしょ?」 「あ、あの」 「だから、襲えない。ずっと慎吾さんとコソコソしてて、本当イラついてたよ」 「ご、ごめんなさい?」 何で疑問系?と、アハハと準太は笑う。何がどうなってるかわからなくて、どれが本当の準太なのかわからなかった。結局は全部準太なわけで。 「…そんなに不安ならいつもいってあげるよ、が好きだって」 「あ、あたしは、準太がだい、好きです」 たった一言で不安が消えた。だってもてるんだもん、準太。でも、あたしがいった言葉で少し頬を染めた準太は少し可愛らしかった。 「島崎先輩!」 「!」 「「任務完了〜!」」 と2人で喜びあったのを、準太に見られてしまったのでそれ以来2人だけで島崎先輩と喋る事はできなくなった。 「…わかってるよな、」 「は、ハイ…」 「そんな、独占欲強い奴は嫌われるぞー」 「慎吾さんに言われたくありません」 準太の笑顔が怖いと思ったのは、この時が初めてでした。 「それでもくっつけたのは俺のおかげだよな、!」 「…は、はい。そうですね」 「それだけは感謝してますよ、慎吾さん」 それだけ、が強調して聞こえたのはあたしの気のせい? |