いなあなたへ








『君のことを愛してる…―――。この関係が罪だとしても…』
『嬉しいわ。貴方となんて、結ばれるとは思っていなかったもの…!』


ジリリ、と映像が揺れる。愛の言葉を交わし、そしてロマンチックなキスシーン――――――。とても幸せな場面だった。一度、目の前が暗くなり、さっきの愛の言葉を云っていた男が、真っ黒なスーツを着て、現われた。


『笑っちまうな!俺とお前が、結婚するなんて。なんで、こんな奴のためにキスなんかしなくちゃいけねぇんだよ』
『…そこまで云うなよ。相手は、誰にも落とせなかった令嬢だぜ。お前は、なんていう詐欺師なんだ』
『女なんて、ただ男に貢ぐタダの者なんだよ』


豹変する男は、ハハハハ、と狂うように笑った。男と話していた奴は、罪な奴だ、と呟く。そして、その正体がばれた男は、後で令嬢が恨み、命をかけても追いかけ、殺すと誓ったものだった。






「…、何固まってるの」
「だってだって!アクションモノだって聞いたから、見にきたのにあんまりだよ!」
「ああ、あの最悪な男?」
「そうだよ。何で、あんな女を騙して平気なわけ。女を見下してるに違いないわ!」
「コレは、映画なのよ。根本的なことはわかってるの」


そうだ。この話は、映画だったのだ。アクションモノだと聞いていたから、最初のラブシーンは何かおかしいとわかっていたけど、こんな最悪な男がでるなんて思わなかった。は、そこまでその男に不満な点は抱かなかったそうだ。ありえない。だって、アイツ、女を、ただのものだとしか思わなかったのよ。結局令嬢は、他の人と結ばれたことになったけれど。最初のシーンで萎えた。何で、こうも、最悪な男がでてくるものなんだろう。やっぱり男って大嫌い。だから、その最悪な男に顔が似ている男も嫌い。そんなあたしに、最悪な展開がきって落とされたのだ。





「これからよろしく、さん」
「…よ、よろしく…」


そう、最悪な展開があたしに訪れた。隣に、口の端を吊り上げている男…―――つまり、高瀬準太という名の男。ちょうど、さっき担任が席替えやるぞー!と言うと、ブーイングがおきたり、やれやれー!といっていたりしていた。あたしは、席替えをやる前までは賛成していた。それは、今夏で、クーラーは前の方が当たり、その上窓を閉めきるので後ろの方はめちゃくちゃ暑い。体育でもないのに、汗をめちゃくちゃかくから。本当、あたしってくじ運がないんだなと思ってしまうけど…!というわけで、席替えが実行されて、くじを引けば、ラッキーセブン!の7番でした。前の方なので、クーラーも当たるし、嬉しいなぁとか、いいことありそー!と思って机を動かした矢先、隣で待っていたのは、なんと、高瀬準太くんなのでしたっ。(怒らず解説したあたしを褒めてくれ!)(マジで嫌なんだ)その高瀬くんを見た瞬間、席を戻そうと思ったのに、クラスの人全員、席を移動させた後だった。神様、そんなにあたしのくじ運を悪くしたいのか!


高瀬準太という男とはまともに喋った事はない。同じクラスになったのは、今年が初めてだし、席が近くなったわけでもなかった。だから、隣の席になる前も一度も喋った事はなかった。喋る用もないし、喋るだけで、誰かに睨まれる。高瀬くんは、ウチの野球部の2年エースであり、人気がすごくあるのだ。きゃーきゃー云っている女たちは、基本的に好きではないので、一緒に騒いだ事がない。だから、興味がなかった。それに、嫌いというわけでもなかった。けれど、奴は嫌いだ。そう!昨日見た映画の、最悪男と顔がそっくりという程、似ているからだ。眉毛も、瞳も、鼻も、口も、全く似てるというわけではないけれど、似ている。兄弟なんじゃないか、と思ったが、そんなんだったら噂が広まっているであろうと思ったのでそれはないと考えた。





「ねェ、何でこっち見ないわけ?」
「…は?」
「だって、さん、隣になってから、一度もまともに話してくれないけど」
「そ、そうだっけ?」


授業が終わった後、ザワザワした教室で聞かれた。そりゃあそうだろう!、と叫びたくなる。あたしは、アンタが嫌いなんだから。男なんて、女を騙して騙して騙して、面白がるだけなんだ。男なんて信用するものか。高瀬準太の云うとおり、まともに話したことはなかった。「うん」とか「違う」とか「ごめんなさい」程度の会話だった。別に、隣になったからって話さなくてもいいじゃないか。大嫌いだ、あんたなんて。


「いつも、目を逸らすし」
「…」
「聞いていない素振りもするし」
「…」
「お前、なんか俺のこと嫌ってるわけ?」
「…ち、ちがうけど…」
「違うなら、俺の瞳見て云えよ」


突然、だった。高瀬準太は、怒っていたようだ。あたしの態度に。そりゃあ怒るだろうけど、あたしだって嫌いなんだ。拒絶反応をしてしまうんだから。しょうがないじゃないか。話したくもない相手に、何で作り笑いして話さなければいけないんだ。話したくないもんは変えれないんだよ。



「た、高瀬くんのことなんて、嫌いだよ!」
「…」
「絶対女の子のこと見下してるし、最悪男に似てるし、にやってしてる表情が嫌い!」
「何を見ていったんだよ、ソレ」
「それって、全部見た目から!だって、男なんて嫌いだもん」
「最悪男って誰?」
「……今やってるアクション映画の俳優」



「ぷっ!」



「へ?」



目の前にいた、高瀬準太がお腹を抱えて笑い出した。…何が起こっている、目の前で。というか、こんな人だったの、高瀬くんって。すぐ笑うような人だったけ?記憶を探るにも、高瀬くんが笑うような顔を見たことはない。冷めたような笑いをみたことがあったけど。何、コレって。あたしのタダの勘違い。



「アハハッ!!さん、超うけるっ…!」
「…あの、何ですか…」
「だって、最悪男ってさぁ、俳優っての…!普通、振られた元彼かと思うじゃん」
「はぁ、そうですね…」
「俳優って…!マジツボに入った…!」
「た、高瀬くん?大丈夫ですか…?」


まだ、お腹を抱えて笑い出している。そんなに、可笑しいことをいった覚えはない。男嫌いっていったんだから、元彼なんていないのに。つーか、この人、全然あの俳優に似ていない。あの俳優は、笑うことも少なくて、ただの作り笑いばかりだった。でも目の前にいる高瀬準太という人は、作り笑いじゃなくて、大受けしながら笑っている。全然違った。あの最悪男は、性格が良かったら惚れていたんだと思う。最初の場面がロマンチックすぎたから。


「やっぱ、最高だわ。ま、嫌いな理由がわかったからいいとして」
「…何がいいの?」
「その俳優よりも印象をあたえればいいってことだろ?」
「…どういう魂胆か、よくわかんないんですけど…」

そんなことを云うと、高瀬くんはいきなり顔を近づけてきて、耳元で囁いた。その言葉を聞いた瞬間、顔が朱に染まる気がした。何で、こんな恥ずかしいこと云っておいて、笑って入れるんだろうか。目の前にいる、高瀬準太という人物は。






のことが好きだから、に決まってるだろ』